(1)負の超らせんを擬態した180塩基対の合成ベントDNA(T20)は一過的遺伝子発現系でプロモーターを活性化できる。今回、エピソーマルアッセイ系でT20領域に形成されるクロマチン構造を改正したところ、この領域には並進位相(translational positioning)の異なる様々なヌクレオソームが形成されるが、各ヌクレオソーム上でDNAがとる回転上の位相(rotational setting)は、すべて同じであることが判明した。この結果は、一過的遺伝子発現系を用いた解析結果とほぼ同じであった。次にHeLa細胞ゲノムの様々な位置に1コピーのレポーターを組み込んだ6種の細胞株と、Cre-loxPシステムで用いてこれらの株からT20を欠失させた6細胞株を用いて、細胞ゲノム上でレポーター内のプロモーター領域に形成されるクロマチン構造を解析したところ、ゲノム上でもT20にはヌクレオソームが並進的にポジショニングさせる作用はないが、ヌクレオソーム上のDNAの回転的位相を決定する力があることが分かった。つまり、系を問わず、T20細胞には同じクロマチン構造が形成されることが判明した。昨年度の研究で6組の細胞株すべてにおいて、T20の存在によりプロモーターの活性が大幅に上昇していることが確認された。従って、T20がプロモーター領域に結合したヒストンコアの移動を助けることで転写が活性化する機構が考えられる。 (2)昨年度の研究で、ヒトプロモーターではTATAボックスおよびイニシエーターが外の領域とは異なる特徴的な機械的特性を有していることが解明された。今年度の解析で、同じ特性がマウスのプロモーターでも見られることが明らかになった。また、明確なシス配列を持たないプロモーターでは、転写開始点を中心とした数塩基対の領域がTATAボックスやイニシエーターの機械的特性と良く似た特性を有していることが明らかになった。これらの特性は基本転写因子による標的部位の選別(target-site selection)に利用されている可能性がある。
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