研究概要 |
マイナス鎖RNAゲノムとしてもつインフルエンザウイルスは細胞に感染後、ゲノムを転写して2種類のプラス鎖RNA(ウイルス蛋白の合成のためにmRNAおよび自己のゲノムを複製するためのゲノムRNAに相補的なcRNA)を合成する。ウイルスゲノムにコードされるウイルスRNA依存RNAポリメラーゼは、2種類のプラス鎖RNAの合成のいずれも関与する。インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼはまた、宿主細胞のcapped-RNAを切断して、転写の短鎖プライマーをつくるエンドヌクレアーゼ活性を持つなど多機能酵素である。私達は先にRNAポリメラーゼが、3種類の蛋白PB2,PB1,PAからなる複合体であることを発見した。ウイルスRNAポリメラーゼの機能制御機構を解明する目的で、ウイルスRNAポリメラーゼの大量精製を試みた。3種類の蛋白を発現する組換バキュロウイルスを作製し昆虫細胞に感染させるとこれら蛋白は昆虫細胞内で発現し複合体を形成した。この複合体を昆虫細胞から精製し、試験管内でRNA合成とエンドヌクレアーゼ活性をテストした結果、エンドヌクレアーゼ活性の発現にウイルスのゲノムRNAが必須であることが判明し、RNAによる酵素機能制御のモデルを提唱した。このエフェクター機能の分子基盤を知る目的で、プロモーター領域の変異体を作製し、エンドヌクレアーゼ活性への影響を調べた。その結果、プロモーター領域のパフ構造が必須である可能性が予測された。一方、組換えバキュロウイルスの系を利用して、2種類の蛋白からなる二量体(PB1-PB2,PB1-PA)を作製してそれらの機能を解析した結果、PB1-PB2はエンドヌクレアーゼ活性と転写活性を示したが、PB1-PAは複製活性を示した。この結果から、三量体ポリメラーゼが、感染細胞内因子によりあたかも二量体のように機能をしているとの仮説を提唱した。酵母細胞のtwo-hybrid screeningを利用して探索し、幾つかの宿主因子候補蛋白を見つけた。今後は、ウイルスRNAポリメラーゼと相互作用する宿主蛋白因子群のウイルスRNAポリメラーゼ活性への影響を解明し、その上で更にそれらの細胞内での生理機能を同定していく予定である。
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