真核細胞の細胞分裂は染色体複製の完了に始まり、染色体の凝縮、核膜の崩壊から、染色体の分離、細胞質の分裂、娘細胞での核形成へと続く一連の動的な過程であり、その制御機構の解明は生命現象を理解する上で最も重要な課題の一つである。これまでに細胞分裂を制御するリン酸化酵素の存在が知られているが、最近の研究から、細胞膜近傍を起点とするシグナル伝達経路において極めて重要な機能を持つリン酸化酵素が分裂期に強く活性化されることが明らかになり、細胞外刺激に応答するシグナル伝達機構と細胞分裂の制御機構が密接に関連していることを示唆しており、細胞分裂機構の解明には両機構を統合的に理解することが必要と思われる。本年度の研究において得られた結果は以下の通りである。細胞周期分裂期に於いて細胞周期に依存してチロシンリン酸化されるシグナル伝達分子の検索を行い、チロシンキナーゼの下流で機能するシグナル分子として同定したDokが細胞分裂期に極めて強くチロシンリン酸化されることを発見した。 また、その優性阻害性(dominant negative)変異体の過剰発現が細胞分裂の中期以降においてアポトーシスあるいは細胞分裂の破綻(catastrophe)を招くという予想外の知見を得た。さらに、Dokの優性阻害性変異体が、G1期あるいはS期においては核内に局在することも判明した。Dokのリン酸化と局在の変化と細胞周期制御との関連は不明であり、来年度の課題としてさらに検討する予定である。細胞ゲノム複製のモデルとしてEpstein-Barr(EB)ウイルスの潜伏感染複製起点oriPを用いて、シグナル伝達と細胞周期制御の関連を検討する実験を行った。その結果、ゲノム複製起点oriPの活性がp38 MARKによって抑制されることを発見した。来年度にはp38 MARKのG1/S期における標的分子の同定と細胞周期制御における機能を解明する。
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