本研究ではG1期で細胞周期を停止するヒトデの成熟未受精卵はDNA複製開始にいたる過程のどこで細胞周期を停止しているのかを決定しようとした。DNA複製を開始するかどうかを決定するクリティカルな段階である「START」を越えると、Cdk2とサイクリンEの複合体が活性化される。そこで、未受精卵のG1停止では、この複合体がどうなっているのかを調べた。その結果、Cdk2もサイクリンEも受精の有無に関わらず、減数第一分裂の後半から蛋白質が合成され、合成されると両者はすぐに複合体を形成し、活性を持つようになることがわかった。そこで、G1停止した卵で、すでにSPFは活性化した後なので、この段階では「START」を越えていると予測された。しかし、アンチセンスDNAの微小注射やcdkの阻害剤によりcdk2活性を阻害してもDNA複製は起こったことから、第一回目のDNA複製にはcdk2とサイクリンEの複合体は不要であり、G1停止の段階ですでに「START」を過ぎているというのではなく、「START」を経ずに、DNA複製を開始している。この事実は非常に信じがたいことであるが、受精の際には特別なDNA複製開始の制御があるのかもしれない。 「START」に依存しないのなら、ヒトデ卵はどの段階でG1期停止をしているのか?G1停止の未受精卵ではMCM7の免疫沈降によりMCM7とMCM2は共沈せず、(クロマチン上では明らかでないが)MCM2が複合体から離脱している可能性があり、もしそうであれば、G1停止の段階は(この時PCNAは核内にはあるが、まだ複製装置に組み込まれていないので)、Ddkの機能する段階より後ということになり、DdkとPCNAが複製装置に導入されるところの間に存在する未知の細胞周期のチェックポイントであるかもしれない。
|