本研究においては、小胞体内でミスフォールドした糖タンパク質の小胞体関連分解(ERAD)を促進する、マウスEDEM(ER degradation enhancing α-mannosidase-like protein)タンパク質の機能解析を行い、以下の点について明らかにすることができた。 1.小胞体マンノシダーゼI(ER ManI)は、N結合型糖鎖のマンノースをトリミングする酵素であり、この反応が糖タンパク質のERADの、最初の引き金になると考えられている。EDEMはER ManIと一次配列上のホモロジーをもつが、ER ManIとは異なり、マンノースをトリミングする酵素活性はもっていない。私たちはERAD基質となる糖タンパク質の糖鎖構造を解析し、両者のERADへの作用機転が異なることを明らかにした。 2.小胞体関連分解の基質となる変異型α1-antitrypsin null Hong Kong(NHK)は、分子内にシステインをひとつもち、小胞体内で、分子間ジスルフィド結合を形成することがわかった。EDEMを同時に発現させると、この二量体形成が抑制された。一方、野生型のα1-アンチトリプシンに対しては、EDEMを共発現させてもほとんど影響はなかった。これらのことから、EDEMは、小胞体内でミスフォールドした糖タンパク質に結合し、分解されるまでの間に凝集体を形成するのを阻害するなどの、分子シャペロン様機能を果たしている可能性が考えられた。 3.マウスEDEMのホモログタンパク質をクローニングし、EDEM3と名付けた。EDEMは小胞体の膜タンパク質であるのに対し、EDEM3は、小胞体に存在する可溶性タンパク質で、EDEM同様、細胞に過剰発現させると、糖タンパク質のERADを促進する機能をもつことが明らかになった。しかし、小胞体ストレスに対する応答性や、糖鎖解析の結果から、このふたつのホモログタンパク質の作用機序は異なると考えられた。
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