研究概要 |
細胞の再配列と移動は形態形成における基本的な現象である。線虫Caenorhabditis.elegans(C.elegans)の産卵孔である陰門は表皮の再配置による管状構造形成のモデルとして有用である。陰門形成における陰門前駆細胞の細胞運命決定機構が極めて詳細に解析されているのに対して、陰門形態形成運動の分子機構に関しては、これまで全く調べられていない。私たちはC.elegansのプレキシン(plx-1)変異体を作成し、C.elegansではプレキシンが表皮細胞の配列・移動を制御する重要な因子であることを明らかにしてきた。本研究ではC.elegans陰門形成におけるセマフォリン/プレキシンの役割を明らかにした。 幼虫腹側正中部に前後方向に一列に並んだ6個の表皮細胞であるVPCは、形成直後には互いに孤立しているが、やがて前後方向へ伸張して相互に接触する。野生型では一旦VPC同士が接触すると前後方向の伸張は停止するが、膜貫通型セマフォリンSMP-1変異体およびプレキシンPLX-1変異体では、VPCは相互接触後も伸張を続け、左右にオーバーラップするようになる。smp-1,plx-1遺伝子はいずれも全VPCにおいて発現しているが周囲の細胞には発現が無く、さらに、それぞれの変異体で、各cDNAをVPC特異的に発現させるとオーバーラップ表現型が救済されることから、両分子のVPCでの発現が適切な配列形成に必要十分と考えられる。おそらく、隣接するVPC上のセマフォリンを受容したプレキシンから細胞内へ一種の反撥シグナルが伝えらることによってVPCの伸長が停止する、と予想される。 smp-1,plx-1変異体では陰門細胞の配列は常に異常であり、成虫はMultivulvae様の構造を形成することもある。しかし、上記のcDNA発現によってVPCでの配列異常が救済された変異体では、その後の発生における陰門細胞の配列がほぼ正常であったことから、smp-1,plx-1両遺伝子は陰門後期発生には大きな役割を持たないことが示唆された。また、VPCの配列異常によって、少数の変異体ではVPCの運命決定に異常が認められた。
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