研究概要 |
神経管は脊索動物を特徴づける器官であり,高度な中枢神経系を構成するだけでなく,中軸構造としても重要である。ホヤ胚における神経管形成の分子メカニズムを探る目的で,以下の2点を中心に解析を行った。 1,CiNut遺伝子機能阻害胚における神経管細胞の移動 Morpholino Oligo (MO)によるCiNut遺伝子の機能阻害を行ったところ,胚の背側に丸いドーム状の突起が現れる特徴的な形態異常を示した。MO注入胚で脊索マーカーの発現を調べたところ,脊索が背側に突出していることが分かった。さらに,脊索の背側で伸長するはずの神経管が頭部に留まっていることも分かった。これらの異常は,神経管の形態形成運動が阻害され,その結果単独で伸長する脊索が胚の背側に突出してしまったためと考えられる。CiNut遺伝子の発現開始時期が予定神経管細胞の形態形成運動開始時期に一致していることとともに,CiNut遺伝子が神経管の形態形成運動に何らかの重要な働きを担っていることが示唆された。 2,CiMsi遺伝子機能阻害胚における神経管形成 CiMsi MO注入胚では,原腸陥入が阻害され,神経管が閉じない形態異常が現れた。各分化マーカーの発現から,脊索細胞の背側に神経管細胞や表皮細胞が見られないこと,神経管が胚の前後や左右に分離すること,神経マーカー発現細胞が散在することなどが観察された。これは,本来なら神経管として統制の取れた細胞移動を行うはずのところが,同一組織としてのまとまりがなくなり,正常な形態形成運動を行えなかったためと考えられる。ショウジョウバエなどでMusashi遺伝子がnumb遺伝子などを介し,Notchシグナルカスケードに関与していることを考え合わせると,CiMsiが,ホヤ胚神経管形成過程においても,細胞間の接着や情報伝達に関する何らかの役割を担っていると考えることができる。
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