研究概要 |
個体の性決定過程の分子メカニズムを包括的に解析する目的で、マウス未分化生殖腺体細胞において機能する因子の遺伝子カスケードの研究が急速に進められている。そのなかで、研究代表者は、エピジェネティックな遺伝子発現制御に関わるクロマチンタンパクに焦点をあて、他の因子間との関係を、分子生物学的・発生遺伝学的手法で解析を行なってきた。本研究課題では、既知転写因子とクロマチンタンパクの関連に注目し、初年度にはAd4BP/SF-1,Emx2,Sox9,Arx,新規フォークヘッドFkh3とマウスポリコームM33の関連を解析した。その結果、Ad4BP/SF-1とM33は、生殖腺ばかりでなく副腎、脾臓形成過程においても同一カスケードにあり、遺伝的相互作用があること、さらに発現制御において上下関係にあることが明らかになった。そこで、本年度は、Ad4BP/SF-1とM33の関連を中心に解析を進めた。副腎皮質由来のY-1細胞を用いて、M33の制御が直接Ad4BP/SF-1遺伝子座を標的としている可能性を検討するため、我々独自に作成したM33抗を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP)による解析を行なった。その結果、Ad4BP/SF-1遺伝子座の隣接遺伝子座とのバウンダリー領域にM33の集積を認め、M33が直接Ad4BP/SF-1遺伝子座を標的としていることが明らかになった。特に、Ad4BP/SF-1遺伝子座の5‘側のGCNFとの境界領域においてはインスレーターに特異的に結合する因子CTCFおよび核マトリックスとの結合領域に隣接したゲノム領域にM33が集積していることが我々独自の研究により明らかになった。哺乳類において、ポリコーム遺伝子群の標的遺伝子座の同定は遅れている。さらに、Ad4BP/SF-1は、オス性決定因子Sry,Sox9の発現にも関わる可能性が示唆されている。本研究課題において、性決定に関わるM33の標的がAd4BP/SF-1遺伝子座であることを明らかにしたことは、個体の性決定過程の分子メカニズムの解明において意義深い。
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