研究概要 |
さまざまなショウジョウバエ種のヒストン遺伝子に起こっている進化的変化を調べ、協調進化に働いている要因とその役割を明らかにし、メカニズムを解明するのがこの研究の目的であった。キイロショウジョウバエの近縁種のうち未解析であった6種(D.teissieri, D.sechellia, D.mauritiana, D.yakuba, D.orena, D.erecta)および少し離れている5種(D.americana, D.lutescens, D.pseudoobscura, D.takahashii, D.immigrans)について複製依存型ヒストン遺伝子繰り返しユニット領域のDNA塩基配列を決定し、数種については繰り返しユニットコピー間の遺伝的違いも推定した。遺伝子ユニットの種内異質性の程度は1%以下であり、最も近縁な種間におけるそれよりかなり少なく、H3遺伝子領域でみられた協調進化がヒストン遺伝子繰り返しユニット全体でも起こっていることが明らかとなった。コード領域、5'領域、3'領域、スペーサー領域における塩基の組成を種間で比較したところ、突然変異の効果がより大きいと考えられる3'領域や遺伝子間スペーサー領域では種間に大きな差はみられないのに対して、4つのヒストン遺伝子の3番目のコドンの塩基組成は種間に違いがみられ、以前に解析を行ったH3遺伝子とすべて同じ傾向を示していた。種間にみられる塩基組成の違いは突然変異のパターンが変化したためではなく、自然選択が大きな役割をしていると考えられる。GC含量が高いコドン3番目の塩基組成にはAとTに対する負の自然選択が強く働いていることが考えられ、この自然選択の効率は集団の大きさに依存し、過去にその影響を大きく受けた種とあまり受けなかった種があり、この差が現在観察される塩基組成の種間の差になっていることが示唆された。このタイプの自然選択が協調進化の一部を説明できることがわかった。全体のどのくらいの割合を説明できるかについては今後の研究がまだ必要である。
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