初年度である本年度は、動物の進化と性決定との連関から、ショウジョウバエ、線虫、あるいは魚類の性の決定に関与するDM domainを持つ遺伝子(DM型遺伝子)ファミリーに注目し、まだ性染色体も確定していないが、遺伝学的にZZ/ZW型の性決定様式を持つ両生類のアフリカツメガエルのDM型遺伝子の単離を試みた。その結果、精巣形成決定に関与する可能性の高いDM型遺伝子xDMRT1、さらに画期的なことに、雌(卵巣)決定遺伝子の候補となる可能性が十分考えられる雌ゲノム特異的(すなわちW染色体にリンク)なDM型遺伝子xDM-Wの単離に成功した。 DMRT1は、魚類や鳥類で性染色体にリンクしている種が存在し、精巣形成に関与し雄の性決定に重要な機能を持つことが知られている。本研究で単離されたxDMRT1はゲノムサザン解析から常染色体にリンクしていると考えられた。一方、ゲノムサザン解析からW染色体にリンクしていると考えられるxDM-WはxDMRT1とDNA結合ドメインで非常に相同性が高く、進化上、性染色体の分化の際、xDMRT1の重複によって分子進化してきたと予想されるが、xDMRT1のC末端に相当する部分が欠失していた。また、RT-PCRによる解析から、両遺伝子は共に、幼生の性決定期の未分化生殖巣で発現が確認された。 これらのことから、W染色体に座位すると考えられるxDM-Wは、その転写産物がxDMRT1タンパク質の精巣形成に関わる遺伝子の転写を競合的に抑制することによって、雌(卵巣)決定遺伝子として機能するという仮説が考えられる。16年度には、この仮説の検証を行うことによって、ZZ/ZW型性決定機構に新たな分子機構を提示し、性決定機構と進化について議論したいと考えている。
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