本研究では、Saccharomyces属酵母における種の形成機構について、性的細胞認識を支配する性分化遺伝子群の進化の面から明らかにする。遺伝子発現制御の観点から見ると、性分化遺伝子ファミリーは3つの階層のヒエラルキーを形成する。最下層には、実際に性的細胞認識に関与する性的凝集素や性フェロモン及びそのレセプターなどの構造遺伝子群があり、その上の階層にはこれらの構造遺伝子の発現を制御することで性を表現する接合型遺伝子がある。さらに、最上層には接合型の転換を支配しているホモタリズム遺伝子が君臨する。これらの調節順位のヒエラルキーと各階層に属する性分化遺伝子の進化速度との間に密接な相関関係があるのかどうかを明らかにする。つまり、性分化遺伝子ファミリーに関して、進化の過程での選択圧を測定して数値化する。その上で、性分化遺伝子ファミリーの進化的階層性が性的細胞認識のシフトをもたらし、性的隔離へと至る機構を解明する。 平成15年度は、上記の研究を推進するための基礎として、接合型遺伝子の進化のプロファイルを捉えた。現在記載されている23種のSaccharomyces属酵母の基準株から染色体DNAを調製し、パン酵母S.cerevisiaeのMAT a遺伝子のDNA塩基配列をもとに設計したプライマーでPCR増幅を試みた。この実験により取得される情報は、PCR産物が得られる種はS.cerevisiaeに近縁な系統関係にあることを示す。さらに、得られたPCR産物に関しては、そのDNA断片の塩基配列を決定し、進化速度を求めた。実際には、得られたDNA断片に関して、遺伝子としての機能を検定する必要があるが、以上の解析を通して接合型遺伝子の進化のプロファイルを組織的に明らかにすることができた。また、PCR産物が得られない種に関しては、生理学的な面、例えば胞子形成能の欠如などとの関連を調べている。
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