ケニヤ国立博物館所蔵の中新世化石類人猿の形態学的分析をおこなった。中新世は2400万年前から500万年前まで2000万年近く続く地質学的時代区分である。ケニヤを中心とした東アフリカ地域は20世紀前半より類人猿をはじめ多くの中新世霊長類化石を産出しており、アフリカにおけるこの種の研究のメッカである。本研究ではこの地域の中新世前期から後期初頭までの各種化石類人猿を視野に入れつつ、特にケニヤ北部のナチョラ地域で産出した比較的大型の化石類人猿であるNacholapithecus kerioiの形態学的分析に重点をおいた。というのも、この時期のアフリカ類人猿についてはまだデータが少なく、また年代の上からも、ちょうど現生オランウータンにつながる系統が他の大型類人猿と分岐したと推定されている時期だからである。歯牙や上下顎骨の形態を中心に分析を続けた。Nacholapithecusはその少し前の時代の代表的な化石類人猿であるProconsul類にも見られるような原始的な特徴を残しつつ、前顎骨の形態や硬口蓋との位置関係などにおいて、現生大型類人猿の萌芽とも解釈しうる特徴も備えていた。 これに加えて、タイ王国北部と東北部において、中新世類人猿化石の研究とそれに関連した古生物学的な調査を実施した。タイ北部のチェンムアン炭坑産出の大型類人猿化石は現生オランウータンに近いサイズの動物であり、共産する哺乳類化石と予備的な古地磁気層序学的研究にもとづくと、中新世中期と後期の境界附近の時代に生息していたものと推定される。東北部からは、ごく最近、フランス・タイの研究グループが記載した化石類人猿の下顎が知られている。ラジャバット学院ナコンラチャシマ校においてその類人猿化石の模型を観察するとともに、同じ地域から産出した哺乳類化石の調査をおこなった。
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