直立二足歩行はヒトの最も基本的な特徴であり、他の動物にはみられないヒト独自の運動様式である。とくに現代人の行う歩行はヒトの進化の結果として獲得されたものであり、ヒトの生活に最も適応した運動であると考えられる。現代人の歩行の特徴として、股関節の過伸展と膝関節の180度近い伸展があげられる。しかし、人類進化においてこれらの特徴がどのように獲得されたのかについては、まだわかってはいない。その過程を明らかにするため、現代人に膝関節、股関節の伸展を制限した歩行を行わせ、通常歩行との差異について運動学的分析を行った。まず、運動の差異明らかにするためは、三次元運動解析装置とトレッドミル装置を用いた運動学的実験を行い、股関節の過伸展は、上体の直立と関係して、長時間の歩行に欠かせない特徴であること、膝関節の歩行は歩行速度の増加に影響することが認められた。次に、テレメーターを用いた筋電図法により股関節回りの筋活動(大腿直筋、外側広筋、脊柱起立筋、大殿筋)を測定し、股関節の伸展を制限すると、時間の経過により上体の前傾が大きくなり股関節回りの筋が常に活動する必要が生じ、短時間で筋疲労が蓄積するため、長時間の歩行が困難になることが示された。今から300〜400万年前の化石人類であるアファール猿人の行っていた二足歩行については、股関節の伸展の程度について議論がなされてきたが、本研究の結果から、この特徴は人類進化のかなり早い段階で獲得されており、アファール猿人の股関節の伸展に関しては現代人と大きな差はなかったと考えられる。また、現代人において歩行や運動における負荷がもたらす臨床的問題への本研究の応用を探る試みとして、荷物の保持姿勢と歩行効率について実験的研究を行い、左右のバランスと荷重中心の位置により影響がみられることを示した。
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