1.これまでのRT-PCRの解析の結果、RiLIM15の相同配列がイネゲノム内にRiLIM15AとRiLIM15Bの2コピー存在しRiLIM15が2つの相同性遺伝子から構成される多重遺伝子族であることが明らかとなった。植物において複数の相同遺伝子から構成される遺伝子族の例は比較的多いが、LIM15/DMC1タイプの遺伝子の場合ではこれが初めてである。これら遺伝子は減数分裂期の幼穂だけでなく体細胞である培養細胞にも特異的に発現するが、完全展開葉では発現しなかった。その原因として、培養細胞は細胞活性が高いために、本来、正常な組織において組織特異的や発生時期特異的発現を示す遺伝子のプロモーターの発現制御がなんらかの原因で外れ、それらの遺伝子が培養細胞で発現することが推定される。オーキシン処理を行ったArabidopsisの根においてAtDMC1が発現誘導されることが確認されているので、培養細胞におけるこれら遺伝子の発現は、培養細胞を維持している培地に含まれているオーキシンが原因となっている可能性が示唆される。OsRAD51も2コピー存在することが報告されているが、私の研究室では1コピーしか確認されていない。また、培養細胞で発現するかどうかや、その機能についてはこれからの研究にまたれる。 2.RiLIM15遺伝子が減数分裂時同様培養細胞でも発現されることが明らかになったが、減数分裂期と同じように相同染色体間の組換えに関与しているかどうか確認する必要がある。そこで、イネ培養細胞での体細胞分裂期相同換えの有無や発生頻度を調べるために、培養細胞のwaxy座近傍で生じる相同染色体組換えについて調べた。モチ系統A58とウルチ品種のむつほまれF_1種子由来のカルスを約5ケ月間培養し、その各再分化体のR_1種子胚乳のウルチ、モチ形質の分離比についてX^2検定を行った結果、期待される分離比(ウルチ:モチ=3:1)に適合しない再分化体は全体の44.2%もあったが、このなかに、1粒を除き他は全てウルチ形質の胚乳である種子を持つものが1個体認められ、この再分化体は、Wxwxの遺伝子型の培養細胞がwaxy座近傍での相同染色体の組換えの結果、WxWxとwxwxの遺伝子型を持つ娘細胞が分離し、その中のWxWxを持つ細胞が再分化したことが示唆された。しかし、その個体で1粒のみモチの形質を示したが原因は不明である。以上の結果から、イネ培養細胞でwaxy座において相同組換えが生じたことが示唆された。
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