生育時の二酸化炭素上昇がイネ植物体の炭素代謝にどのように影響するかをソースである葉身、シンクである穂、それらを結びつける転流および一時貯蔵サイトである葉鞘について調査を行い、最終的に収量へ及ぼす影響を解析した。 (1)収量性への高二酸化炭素の影響を生理学的・生態学的に調査するために環境省地球環境保全試験研究FACEプロジェクトサイト(岩手県雫石町)で栽培したイネを使用した。イネの光合成産物を13Cでラベリングし、一定時間後の植物体内の13C分布より、炭素の転流・分配を測定した。その結果、高二酸化炭素状態で育成したイネの方が最終的に穂に移行する13Cの量は多く、光合成産物が効果的に穂に移行していることが判明した。また、葉鞘等に蓄えられたデンプンについてもシンクである穂への登熟初期における移行が高二酸化炭素で育成したイネの方が早かった。これらのことから大気高二酸化炭素濃度が光合成産物の穂への転流へ影響を及ぼしていることが判明した。 (2)ソースである葉身についてより細かい解析を行うために、生育時二酸化炭素濃度を変化させてイネ植物体を育成した。葉身の光合成について、光化学系の電子伝達活性を測定した結果、育成時二酸化炭素濃度が上昇すると、強光下で光合成+光呼吸に使われるエネルギーは低下し、光化学系IIが吸収したエネルギーとの差が大きくなった。このことから、高二酸化炭素状態では吸収したエネルギーが利用量より過剰になり、活性酸素が起こりやすい状態にあるが、オルターナティブなエネルギー消去系の働きを活発化させて障害を抑制していると思われた。また葉内の二酸化炭素濃度に注目すると、高二酸化炭素状態で育成したイネでは炭酸固定サイトへの二酸化炭素の流れが流れにくくなり、その結果、葉外の高二酸化炭素の影響を緩和していた。 これらのことより、イネ植物体においては育成時二酸化炭素の上昇により、シンク、ソース、転流ともに変化していることが判明した。
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