イネの葉鞘および桿におけるデンプンの蓄積ならびに分解の分子機構を解明するため、以下のような点について研究を行った。 1.デンプン代謝関連酵素遺伝子の検索 デンプン代謝関連酵素群はイネゲノム中において複数の遺伝子によってコードされた遺伝子ファミリーを形成していると予測された。そこで、データベース検索によって各酵素についてその遺伝子ファミリーの構成員を検索した。その結果これまでに、ADPグルコースピロホスホリラーゼは6種類、デンプン合成酵素は10種類の遺伝子によりコードされていることが明らかになった。さらに他の酵素遺伝子についても検索を続けている。 2.デンプン合成酵素遺伝子群の発現特性の網羅解析 上記により明らかとなった遺伝子ファミリーのうち、デンプン合成酵素についてその発現特性を網羅的に解析した。その結果、デンプン蓄積期の葉鞘では、デンプン合成酵素遺伝子のなかでもSSII-2、SSIII-1およびGBSSIIの3種類の発現が特に高く、それらの発現レベルはデンプン分解期の葉鞘では著しく低下することが明らかになった。したがって、葉鞘におけるデンプン合成にはこれら3種のデンプン合成酵素遺伝子が重要な役割を果たしている可能性が強く示唆された。また、この3種類の遺伝子はデンプン蓄積期の穎果では発現レベルが低く、主として葉鞘を含む栄養器官におけるデンプン合成に関与していることが示唆された。現在、同様の解析を他の酵素遺伝子についても実施している。
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