ソルビトールによる糖代謝酵素の発現制御機構を解明するため、シンク組織におけるソルビトール代謝のキー酵素であるソルビトール6リン酸脱水素酵素(S6PDH)の遺伝子発現について調べた。常緑果樹であるビワ葉は多糖類が多く含まれるため、通常のメソッドや市販のキットを用いてもmRNAは抽出できなかった。様々な抽出方法を試みた結果、CTABを用いることで純度の高いmRNA標品を調製することができた。ソルビトール溶液に浸したビワ葉よりmRNAを抽出し、S6PDHの発現をノーザンブロツト解析により調べたところ、低濃度のソルビトールでは発現に影響が認められなかったが、高濃度ではS6PDHのmRNAの発現が抑制された。以上のことから、S6PDH遺伝子はソルビトールにより発現が負に制御されることが示唆された。来年度は、本知見をもとにシグナル物質と糖センサーの実態を明らかにすることにより、ソルビトールによる糖シグナリング機構を解明する。 ソルビトールにより発現制御される遺伝子群の網羅的解析に適した実験系を設定するために以下の実験を行った。モモとセイヨウナシの果肉由来の培養細胞を、ソルビトールを唯一の炭素源とする培地で生育したところ、モモでほとんど増殖が見られなかったが、リンゴでは旺盛な成長を示した。リンゴの培養細胞にソルビトールを含めた各種糖や飢餓ストレスを与えたところ、ヘキソース輸送体(PcMST3)の遺伝子発現は大きく変化しなかったものの、ソルビトール代謝酵素は転写・翻訳レベルで変動し、ソルビトールにより発現変動する遺伝子が一部確認できた。以上の結果より、網羅的解析にはリンゴ果肉由来の培養細胞を用いることが適切であることが明らかとなり、今後の解析の材料としていく。
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