いもち病菌感染変異イネを光条件下に保つとオーキシン生合成に関与するTry経路の初期酵素であるトリプトファン脱炭酸酵素(TDC)の高い活性が認められた。しかし、暗黒条件下のイネではTDC活性はほとんど検出されなかった。TDC活性は光照射下ではいもち病菌の感染初期である接種9hr後から増加し始めた。TDC活性の光依存的増加は、いもち病菌毒素を処理した変異イネにおいても観察され、その結果Try蓄積と関口病斑形成を誘導した。モノアミン酸化酵素(MAO)は細胞質酵素TDCによりトリプトファンから生合成されたTryを酸化し、その結果として過酸化水素が生成される。MAO活性はいもち病菌の胞子接種あるいは胞子発芽液処理したイネ葉で光依存的に増加した。Try処理による関口病斑形成はMAOの阻害剤メタラキシル又はセミカーバザイド存在下では著しく阻害された。MAOの特異的基質β-フェニルエチルアミンを処理した関口朝日では光依存的に関口病斑が形成されたが、基質にならないインドール3プロピニオン酸及び(±)-フェニルエチルアミン処理葉では光照射下でさえ病斑は形成されなかった。さらに、Tryによる関口病斑形成は過酸化水素の消去剤(アスコルビン酸やカタラーゼ)により阻害されたが、O_2^-の消去剤SODでは阻害されなかった。過酸化水素は関口病斑を光依存的に誘導したがアスコルビン酸存在下では光照射下でさえ阻害された。多くの植物防御系では原形質膜に局在するNADPHオキシダーゼが酸素種生成に関与していることがよく知られている。しかし、Tryによる光依存的関口病斑の誘導はNADPHオキシダーゼの阻害剤であるdiphenylene iodoniumの存在下でも阻害されなかった。それゆえ、NADPH依存的活性酸素種は関口病斑形成には関与していない。これらの結果はMAOによるTryからの過酸化水素生成が関口病斑形成に関与していることを示した。さらに、過酸化水素が関口病斑の形成前及び形成後に生成されていることがDABを用いた組織化学的染色法により証明された。これらの結果は、Try蓄積とMAO依存的過酸化水素の生成が細胞死と関口病斑形成に関与していることを強く示唆した。
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