世界各国、即ちヨーロッパ、中国、ネパール、韓国そして日本を含めたアジア地方からカブモザイクウイルス(TuMV)を約600分離株採集し、それらの中から地理的分布を考慮して、約80分離株の全ゲノム構造について決定した。さらにそれらの構造について分子進化的コンピュータプログラムを用いて組換え、突然変異等を解析してきた。さらにそれらの分離株の病原性や宿主域についても検討してきた。その結果、Brassica-Raphanus(BR)の病原性を有する東アジア産TuMVには明瞭な組換え体がみられるのに対して、ヨーロッパを含んだ旧世界の分離株には明瞭な組換え体がみられなかった。また、組換え体を除いた分子系統学的な解析から、ヨーロッパを含んだユーラシア大陸が起源地とみられ、起源地と思われる地方には明瞭な組換え体がみられず、その理由としては、変異が蓄積して明瞭な組換えを検出できなくなったと推測された。以上の結果を総合的に考察すると、BR系統の東アジア産のTuMVは、最近出現してきたように思われた。これらの結果の一部は、Molecular Ecologyに掲載された。 その他に、300分離株についてゲノムの末端に位置するP1及びCP遺伝子、さらに中央部に位置する6K1、NIa-VPgおよびNIa-Proについて構造を決定してきた。それらの分離株について組換え部位を解析すると、特に東アジアの分離株で、幾つかの遺伝子領域に組換えの集積領域がみられた。これらは、東アジアにおけるTuMVの拡散の足跡に思える。今後、さらに残りの遺伝子領域を解析し、本邦への拡散、本邦内の拡散について考察する予定である。
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