世界各国、即ちヨーロッパ地方の西ユーラシア地方、中国そして日本を含めた東ユーラシア地方からカブモザイクウイルス(TuMV)を採集し、それらの中から地理的分布を考慮して、約150分離株のゲノム一部構造について解析した。まず、東ユーラシア地方の分離株について、得られた塩基配列情報を基にバイオインフォマティクスを用いて組換え部位を解析した結果、TuMV集団には組換え体が当たり前のように存在し、それらは同一リネージ内、或いは異なるリネージ間の組換え体であった。ゲノムの様々な場所に組換え部位が見られたが、例えば第1タンパク質(P1)遺伝子に多くの組換え部位が見られたが、それらは複数の組換えの出来事により集積した組換えのホットスポットと言うよりも、一回の組換えの出来事により、それらが東ユーラシア地方に拡散し、結果として多く組換え体がTuMV集団に見られると思われた。以上の結果から、組換え部位も分子系統学的な分離株の関係と同様、本ウイルスの拡散追跡に有効に利用できると思われた。 さらに、西と東ユーラシア地方のTuMV集団について比較した。西ユーラシア大陸の分離株の多くは、Brassica宿主型であるのに対して、東ユーラシア大陸の分離株は、Brassica-Raphanus宿主型であった。それらの組換え部位を解析した結果、P1遺伝子に最も多くの組換え部位が見られたが、東西ユーラシア大陸の分離株間では、ゲノムの異なる位置に見られた。塩基レベルでの多様性は、西ユーラシア大陸で大きく、東アジアのサブ集団での選択圧は、幾つかの遺伝子領域で大きかったことから、西と東ユーラシア地方の集団は、起源地から独立して進化したように思われた。またそれらの遺伝構造には、創始者効果が反映しているように思われた。
|