研究概要 |
各地の農業試験場等にアンケート調査を行ったところ、キャベツ等にキンウワバ類の被害が多いという回答を得られたが、イラクサギンウワバの発生が見られるという回答は少なく、本種の認識がなされていない可能性が示唆された。そこで特にキャベツほ場等を中心にキンウワバ類の幼虫採集を行った。その結果、多くの地域での本種の発生が確認された。主として6月および10月に行ったが発生するキンウワバ類には違いが見られた。すなわち6月の時期にはどの地域でもタマナギンウワバが優占種であり、イラクサギンウワバの発生は少ないものであった。ところが10月の時期に採集を行うと、西日本では優占種が交代し、ほとんどのほ場ではイラクサギンウワバしか発生がみられなかった。千葉県では優占種はタマナギンウワバで変わらなかったが、イラクサギンウワバの比率が増加していた。さらに12月に入った調査ではイラクサギンウワバの個体数は急激に減少し,タマナギンウワバより早く野外で見られなくなった。その要因のひとつとして,イラクサギンウワバは低温に弱く,冬の早い段階でほとんどが死滅するためと考えられたため室内実験を行い、各ステージの低温耐性を求めた。各ステージを5℃条件下に長時間さらしてその死亡率などを求めた。その結果、幼虫ではイラクサギンウワバの死亡率がタマナギンウワバよりも高く、イラクサギンウワバは低温耐性が低いことが判明した。冬の寒い時期でも発生が見られ,翌年春先から再び出現し始めるタマナギンウワバに比べ,冬にほとんどが死滅してしまうイラクサギンウワバは,翌年の発生が遅くなると考えられた. イラクサギンウワバの発生源調査は今回のデータだけでは明らかにできなかったが、室内実験ではキンウワバトビコバチというキンウワバに特異的な寄生蜂に日本産のイラクサギンウワバは寄生されなかった。北米個体群では寄生されることが分かっており、実験にも用いられるほどであるから、北米個体群が日本に入り込んでいる可能性は低いと考えられた。
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