昆虫の発育・生理・生殖は基本的に2種類の脂溶性のホルモン、エクダイソン(20E)と幼若ホルモン(JH)により制御されている。現在のところJHに関しては、はっきりとした標的遺伝子や応答配列すら報告されていない。本研究では、エクダイソンの分子レベルでの作用が、JHにより修飾・阻害されることに着目して、エクダイソンの作用を修飾阻害する可能性のある因子をクローニングして、JHレセプターを検索・同定し、その分子レベルでの作用に迫ることを目的としている。本年度は、既にcDNAをクローニングした蚊のarylhydrocarbon receptor (AhR)とそのヘテロダイマー形成のパートナーと考えられるArntをショウジョウバエのS2細胞に導入して、JH作用を仲介するかどうかを検討した。その結果、AhRのみを導入し、レポーターとしてダイオキシン応答配列を持つluciferase遺伝子を用いた場合に、培地に加えたJH IIIの濃度に依存してレポーター活性が上昇することを確認した。またこの系では他のnaturalなJH、合成JHアナログにも反応性が認められ、JHアナログのスクリーニングにおける有用性があきらかとなった。このモデル系の場合、必須の因子はAhR、ダイオキシン応答配列を持つレポーター、JHであった。しかし、AhRと酵母の転写因子・GAL4のDNA結合ドメインとの融合タンパクを作成し、レポーターとしてGAL4応答配列を用いた場合、JHへの反応性は消失し、またAhRの細胞内での局在性を調べたところ、JHの存在の有無に関わらず細胞質と核の両方に存在が認められた。以上のことから、AhR自身はJHレセプターではなく、別の経路でJHのシグナリングに関与することが示唆された。
|