本研究の目的はわが国におけるコナガとその天敵の発生動態を明らかにするとともに、それらの相互関係を解析し、天敵利用の可能性を探ることである。平成17年度までの研究で次の点が明らかにされた。 (1)西南暖地の平地キャベツ圃場におけるコナガの個体群動態をネットハウス内(480株)とオープンフィールド(250株)で2000〜2005年の6年間継続して調査した。 両調査区とも、夏〜秋、コナガの幼虫や蛹は散発的に見られる程度で、密度は著しく低く、コナガによる被害は皆無であった。秋〜冬作のキャベツでは、11〜1月、幼虫による食害痕が散見されたが、目立った増加は認められなかった。しかし、2月初旬から増えはじめ、3月から幾何級数的に増加し、4〜5月に発生量はピークに達した。そのあと、6月には個体群は急速に衰退した。本研究で観察された株当たりの最高密度はネットハウスでは2005年の80頭、オープンフィールドでは2004年の100頭であった。2002年と2005年のオープンフィールドの密度はネットハウスのそれより有意に低かったが、2004年では逆の現象が認められた。2001年と2003年は有意な差は認められなかった。 (2)主要な天敵として、幼虫の寄生蜂コマユバチの一種Cotesia plutellae、蛹の寄生蜂の一種Diadromus subtilicornus、及び幼虫を死亡させる糸状菌が認められた。これら3種の天敵は4月下旬〜7月上旬にかけて、3齢〜蛹期のコナガの60〜80%を毎年死亡させていることが明らかになった。西南暖地では冬季のコナガの発生量が多い年に4月上旬、コナガの発生はピークに達するが、この多発生に対して在来の天敵は密度制御要因とはなり得ていないことが明らかになった。 (3)4月以降に定植したキャベツではコナガの発生量は株当たり数頭までしか増加しないこと、夏季にキャベツを継続して栽培してもコナガの発生がほとんど認められないことなどから、夏季のコナガの密度低下の主要因はヒメバチ、コマユバチ、糸状菌などの天敵であり、餌資源の減少は直接の原因となっていないことが示された。
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