本研究の目的はコナガとその天敵の発生動態を明らかにするとともに、それらの相互関係を解析し、天敵利用の可能性を探ることである。研究内容の概要は以下の通りであった。 2箇所の圃場(O圃場とN圃場)で、2000年秋〜2005年、キャベツを無農薬で周年栽培し、コナガとその寄生蜂の個体数を追跡調査した。O圃場(250株)は露地に設けた。N圃場(480株)は夏に多発しキャベツを暴食するモンシロチョウを排除するため、網室(12mx12mx2.5m、網目9x9mm)内に設けた。周年のサンプリングを可能にするため、両圃場とも2区画に分割し、それぞれに時期をずらしてキャベツを定植した。サンプリングは月2回、全株の10%を無作為抽出した。 夏〜秋、コナガは散発的に見られる程度で、密度は著しく低く、コナガによる被害はほとんど認められなかった。秋〜冬作のキャベツでは、11〜1月、幼虫による食害痕が散見されたが、目立った増加は認められなかった。しかし、2月初旬から増えはじめ、3月から幾何級数的に増加し、4〜5月に発生量はピークに達し、株当たり最大密度の平均はN圃場で80頭、O圃場で100頭に達した。しかし、6月には個体群は急速に衰退した。主要な寄生性天敵として、コナガサムライコマユバチCotesia plutellaeとヒメバチの一種Diadromus subtilicornus、及び糸状菌が認められた。コマユバチとヒメバチの株当たり平均密度の最大はそれぞれ30頭と25頭を超えた。5月〜6月のコマユバチとヒメバチの寄生率はそれぞれ50〜75%及び80〜90%に達した。6月以降のコナガの密度の急激な低下はこれらの天敵の働きによるものと推察された。4月上旬のコナガ個体群に対しては上記の天敵は発生時期のズレから密度制御要因とはなり得ていないことが明らかになったが、早春の人為的な寄生蜂の放飼はこの時期のコナガの増殖を有効に抑えるかもしれないことが示唆された。
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