1.神経ペプチドであるコラゾニンの、カイコにおける標的器官を調べた。カイコでは、コラゾニンの投与により吐糸量が減少すること、また、前部絹糸腺中の絹タンパクの物理性が変化することから、前部絹糸腺がコラゾニンの標的器官であると推定された。また、吐糸の阻害は大型絹糸昆虫であるエリサンでも認められたが、繭をつくらない鱗翅目昆虫であるアワヨトウではまったく効かなかった。 2.前胸腺抑制ペプチド(PTSP)やコラゾニンの前駆体をコードする遺伝子の発育に伴う発現の変動を、ノーザンブロット法を用いて解析した。コラゾニン遺伝子は脳で発現していたが、4-5齢幼虫期において発現の変動は特にみられなかった。一方、PTSP遺伝子は、脳では摂食の時期に高く眠や吐糸の時期に低いという発現の変動がみられたが、腹部神経球では発現に大きな変動はみられず、組織によって異なる発現の制御を受けていることが推測された。 3.吐糸1日目のカイコ幼虫に10^<-8>molのPTSPを1回注射することにより、3時間後の脱皮ホルモン濃度は対照区と比較して有意に減少し、また、1時間おきに3回注射した場合は10^<-9>molで3〜6時間後まで脱皮ホルモン濃度の減少が持続した。以上の結果からPTSPは生体内でも作用することが確認された。 4.PTSPのBSAとの結合物を免疫原に用い、PTSPに対するマウスモノクローナル抗体を作製した。得られた6種類の抗体のPTSPおよび5種類の同族ペプチドに対する親和性を競合ELISA法により比較検討した結果、抗体の中には、PTSPに特異的な抗体の他、同族ペプチドの異なるサブセットを同等に認識する抗体があることが判明した。特異性が異なるこれらのモノクローナル抗体は、今後の研究の目的に合わせて使い分ける予定である。
|