世界・日本の各地から集めた種々の植物の品種・系統・突然変異体(イネ、トウモロコシ、コムギ、ライコムギ、ブラキアリア、エンドウ)について、以下の点を検討した。 すなわち、(1)Al抵抗性の品種・系統・突然変異体間比較、(2)短時間Alストレス(1時間)で、Al抵抗性差異の発現する条件の検索、(3)根端からの簡易迅速な細胞膜脂質単離法の開発、(4)多孔質中空ナイロンカプセルの合成と、それへの植物細胞膜脂質の組み込み技法の確立、(5)Al抵抗性と、根端細胞膜脂質の特徴、(7)Al抵抗性と有機酸放出の関係。その結果、1時間という短時間Alストレス後に、9時間Ca処理を行って根を再伸長させた時に、Al抵抗性の違いに対応した根端細胞膜透過性の違いが供試全植物で発現することを見出した。 また、ポリリジンでコートしたガラス平板に根端由来プロトプラストを接着させ、低張処理液での洗浄によって、細胞膜ゴーストを得、これの温クロロホルム抽出、除タンパク質、脱水によって簡易迅速に細胞質脂質を単離する手法を開発できた。この膜の精製度は、各オルガネラ膜特異蛍光色素による蛍光顕微鏡法、オルガネラ膜特異脂質のTLCによる検出、オルガネラ膜特異タンパク質の免疫化学ブロッティングによって調査し、細胞膜以外のオルガネラ膜の混入の少ないことが確認された。この細胞膜組み込みナイロンカプセル技法によって、ライコムギではAl処理10分以降、トウモロコシでは10分以内に膜透過性に違いを生じ、Al抵抗性植物は脂質透過性が増大しにくいことを初めて明らかにした。 HPTLCによる定性的調査によって、抵抗性植物では、細胞膜脂質にグルコセレブロシドや遊離ステロールが多いことを見出し、これによって膜亀裂が生じにくいと考えられた。 エンドウのジベレリンやブラシノライド突然変異体による調査によって、ent-カウレンオキシダーゼやジベレリン内生レベルが、直接的または脂質合成に関与して間接的に、Al抵抗性に影響していることを初めて見出した。さらに、ライコムギでは、有機酸放出戦略が発現する以前に、根端細胞膜脂質による抵抗性戦略が発現していることを明かにした。 以上により、現在世界的に広範に信じられている有機酸放出による戦略よりも有力な細胞膜脂質戦略がある可能性を、本研究によって初めて提示した。
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