家畜飼料として大量に使用されている穀類のリン酸の70〜90%がフィチン態の形で貯蔵されている。このフィチンは鶏、豚などの非反芻家畜では消化されない。そのため大量のリン酸が環境中に排せつされている。排せつされたフィチンは土壌微生物のフィターゼによって分解され無機リンとなり、このリン酸が雨水等の表面流水によって河川や海洋に流れ環境負荷の一因となっている。この問題をなくするために、穀類のリン酸の貯蔵形態をフィチンではなく、家畜が吸収利用される形に変えることも一つの方法である。本研究では、フィチン態リン酸割合が低く、家畜に吸収利用されやすい有効態リン酸の多い穀類の育成と穀類におけるフィチン酸蓄積機構の解明を行うことを目的としている。 まず、広島県ジーンバンクより系統保存を行っている大豆140系統とエチルメタンスルホネートで突然変異誘発処理を行って作出した変異体M153の子実についてフィチン濃度等を測定した。その結果、全リン濃度は5.0〜9.6mg P/g DW と大きな品種間差が見られた。一方、フィチン態リン酸濃度は、M153では2.78mg P/g DWであったのに対して、他の品種では4〜6.5mg P/g DWであった。この結果、大豆では、フィチン濃度に大きな品種間差が見られるのと同時に突然変異体M153ではフィチン濃度が著しく低下していることが明らかとなった。M153の全リンに対するフィチン態リン酸の割合は28%であったのに対して、他の品種では60〜90%と高かった。一方、タンパク質濃度、Ca、MgおよびK濃度は全品種で差は見られなかった。播種期を6月5日から10日ごとに変えた条件では、播種期が遅くなる程全リンおよびフィチン態リン濃度が減少する傾向があり、子実肥大期の短縮や温度がフィチンの集積に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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