(a)臨床分離株におけるPVL変換ファージ群の解析:φPVL、φSLT、φTurに加え、フランスのン症分離株由来のφ592、岡山で分離された臨床株由来のφ1057株のPVL変換/保有ファージの全ゲノムの塩基配列を決定し、解析した。これらのゲノム情報、及び現在までに決定されている黄色ブドウ球菌のファージのゲノム情報もとに、PCR scanのためのプライマーを設計し、研究協力者より収集されるPVL産生株について、そこに溶原化しているPVL変換ファージの分類を試みた。フランスおよび、岡山県で分離されたPVL産生分離株とも、φPVLグループ、φSLTグループのファージが溶原化していることが確認された。さらに、今回設定したプライマーで増幅されない物があることから、新たなPVL保有ファージの存在が示唆された。一方、日本株についてはこれらの菌株のコアグラーゼ型別や表現形(付着能、バイオフィルム形成能など)並びに溶原化部位(attB)の多型の解析を進めている。 さらに、今回確認されたφPVL型のうち2株でPVL遺伝子を保有するファージ粒子が得られたが、現在まで感染する指示菌は得られていない。一方、上記新規ファージの確認を進めている。また、これまで単離したφSLT型ファージ群のうち、φTur/φSLT以外の宿主が極めて限定されている物については、ゲノムのDNA複製領域に幾つかの特徴的な共通配列を有していることを見出した。 (b)ファージの感染と宿主の関係の解析:φSLT型ファージの微量尾部蛋白質ORF636がS.aureusへの吸着に関与する因子であることを解明した。S.aureusのファージにおいて、宿主吸着に関与する蛋白質を実験的に同定したのは初めてである。現在ORF636が認識するS.aureusの細胞表層成分を探索中である。 溶原化部位の多型とファージの関係は、(a)のPCR scanにより、PVL保有臨床分離株で、あるattB型に偏る傾向が見受けられた。この傾向とPVL保有株が特定の病巣から分離されることとの関係は解析中である。一方現在、attBにあたるORFの機能を解析するため、当該ORFの欠損変異株を作製している。
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