(a)臨床分離株におけるPVL変換ファージ群の解析:φPVL、φSLT、を初めとする5株のPVL変換/保有ファージの全ゲノムの塩基配列を決定し、それらの情報もとに設計したプライマー群を用い、S.aureus PVL産生株のゲノムを鋳型としたPCR scanに系を構築した。その結果、φPVL、φSLTの各グループはさらにスキャンパターンにより細分化され、PVL保有ファージ群の溶原化状態における分類の基礎を築くことができた。また、コアグラーゼ型による疫学分類との相関を解析し、コアグラーゼ型とφPVLグループ及びφSLTグループの溶原化との間に一定の相関を見出した。現在、各PVL保有株のMLST型との関係の解析を進めている。感染組織によるコアグラーゼ型の偏りを考慮すると、黄色ブドウ球菌の菌株の表現系、感染場所、及び保有しているPVLファージの型別の間の相関が強く示唆された。ごく最近、市中獲得性MRSAが高率でPVLを保有していることが話題となっている。本研究によるS.aureusの疫学とPVLファージの多型による二重の疫学解析は、PVLを保有する市中獲得性MRSAの起源に迫る手法として威力を発揮する事が期待される。 (b)ファージの感染と宿主菌の関係の解析:昨年度φSLTの微量尾部蛋白質であるORF636がS.aureusへの吸着に関与する因子であることを解明し、φSLTは感染しない株を含めて用いた全てのS.aureusに吸着する事から、感染しない株ではファージの吸着以降のステップで感染成立が阻害されていることを示した。今回、φSLTの指示菌であるRN4220についてトランスポゾンによりφSLT耐性の変異株を得た。さらにファージのプロモーター活性のアッセイ系を構築し、本変異株においてφSLTの後期転写が強く抑制されていることを見出した。
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