Bacillus属やClostridium属の細菌が外部環境の悪化に伴って形成する胞子は、通常の熱殺菌では死滅させることは難しく、環境の好転により発芽、栄養増殖して変敗や食中毒、感染症などの問題を起こす。従って、胞子の発芽機構の解明は単に生命現象の新たな分子論的理解をもたらすばかりでなく、「食と健康」環境の改善をもたらす端緒を切り開くものである。枯草菌(Bacillus subtilis)の発芽に重要な役割を果たす胞子固有のペプチドグリカン(コルテックス)に対する分解酵素SleBをコードする遺伝子sleBとオペロンを形成するypeBは、枯草菌ypeB欠損株の表現型がsleB欠損株のそれと全く同一であることから、ypeB遺伝子産物が胞子発芽時におけるSleBのコルテックス分解活性発現に何らかの関与をしている可能性が考えられる。本年度においては、平成15年度における主たる研究成果である(1)B.cereus及びB.megateriumのゲノム解析による発芽関連遺伝子オペロンsleB-ypeBのBacillus属細菌における普遍的存在の確認、(2)発芽時特異的なB.cereus YpeBのプロセシング部位の同定、等をさらに発展させ、細菌胞子の発芽機構の分子論解明を促す以下に示すような成果を得ることが出来た。すなわち、枯草菌YpeBの胞子発芽時におけるプロセシング部位同定にも成功し、YpeBプロセシング部位がBacillus属細菌胞子に普遍的に保存されていることを明らかにした。また、枯草菌YpeBのプロセシング部位近辺のアミノ酸変異が胞子発芽に影響を及ぼすことを明らかにした。さらに、SleB-GFP融合タンパク質を用いて、胞子形成時における部位特異的な局在化機構について新規の知見を得た。加えて、ガス壊疽菌(C.perfringens)発芽酵素SleCによるコルテックスペプチドグリカンの特異的切断部位の決定に成功した。
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