研究概要 |
ヒトの主要な病原真菌であるCandida albicansは、血清などの環境因子により酵母型から菌糸型へと形態を変化させる。この形態変化は、C.albicansの宿主への感染に必須であることからこれまでに多くの研究がなされてきた。その結果、菌糸型へのスイッチングには、細胞内cAMPの関与が示唆され、さらにはcAMPによるAキナーゼ(cAMP依存性プロテインキナーゼ)の活性化が重要であることが明らかになってきた。しかしながら、菌糸型への形態変化を誘発する環境因子やそのメカニズムに関しては全く明らかにされていないのが現状である。申請者は、出芽酵母の栄養源認識とそのシグナル伝達機構の解明を目的として研究を行い、これまでに栄養源情報伝達に関与するGタンパク質共役型受容体遺伝子GPR1をクローニングした。また、Gpr1タンパク質がグルコース依存的に細胞内cAMPレベルを制御するグルコース受容体であることを明らかにし、グルコースという外的シグナルから細胞内cAMPレベル上昇に至る新規なシグナル伝達経路を明らかにした。さらには、Gpr1が出芽酵母における菌糸様の増殖形態である偽菌糸形成に関与していることを明らかにした。出芽酵母において見いだされた新規なグルコースシグナル伝達機構が、細胞内cAMPを制御して偽菌糸形成に関わるという発見は、C.albicansにおける宿主感染の初期段階に非常に近似していることがわかる。我々は、C.albicansゲノムデータベースを検索し、出芽酵母のGpr1ホモログ遺伝子(CaGPR1)を見いだした。CaGPR1遺伝子破壊株の構築を行いその表現型解析から本遺伝子のC.albicansにおける菌糸形成への関与を見いだした。Cagpr1遺伝子破壊株では、菌糸形成が著しく起こりにくくなっていることが明らかとなった。またここでみられた菌糸形成不全は、cAMPの添加により抑圧されたことから、CaGPR1は、cAMP経路を介して菌糸形成を制御していることが明らかとなった。CaGPR1およびそれと共役したGタンパク質αサブユニットCaGPA2の遺伝子破壊株では、グルコース依存的なcAMPの上昇が認められなかった。さらに、これら遺伝子破壊株においては、cAMPによって転写活性化される遺伝子HWP1,ECE1の発現レベルが野生株より減少していることを明らかにした。さらに、遺伝子破壊株で見られた菌糸形成不全が、感染能力に影響しているかを調べた。マウスを用いた感染実験の結果、感染力の低下は認められなかった。
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