研究課題
基盤研究(C)
クオーラムセンシング(QS:菌密度依存的遺伝子発現制御機構)は近年の細菌学において大変注目されている細菌界で広く見られる現象である。特に、病原性細菌の病原因子発現がこのQSにより制御されている例が多く報告されていることから、QSはポスト抗生物質薬剤開発のターゲットの一つとして注目されている。本研究では、申請者が発見した腸球菌の病原性プロテアーゼの発現制御に関わるQS(fsr制御系)を標的とした薬剤の開発を最終目的として、(1)腸球菌自然変異株を用いたfsr制御系に関する分子遺伝学的解析、(2)腸球菌のfsr制御系を標的としたクォーラムセンシング阻害物質の探索を行なった。(1)においては臨床分離株149株の遺伝子解析を行い、28株にfsr制御系遺伝子中の点突然変異を見出した。そして、これらの変異株のゼラチナーゼ生産性、GBAP(gelatinase biosynthesis-activating pheromone)生産性、GBAP応答性を解析し、fsr遺伝子のシグナル伝達系における機能を考察した。(2)においては、放線菌二次代謝産物を対象にスクリーニングを行なった。腸球菌の病原性プロテアーゼ発現の阻害を一次スクリーニングの指標とした。次に、腸球菌の病原性プロテアーゼ発現を誘導する因子GBAPの生産阻害を二次スクリーニングの指標とした。約200株の放線菌を土壌より分離し、培養液上清を一次スクリーニングに供した。阻害活性株は、さらに二次スクリーニングに供した。両アッセイで最も強い活性を示したQU-Y33-1株を選択し、阻害物質Y33-1を単離精製した。Y33-1は1μM以下の濃度で、腸球菌のプロテアーゼ生産およびGBAPの生産を阻害した。腸球菌自身の増殖は10μM以上で阻害した。Y33-1は腸球菌のfsr制御系を標的としたQS阻害剤であると考えられ、新しいタイプの抗感染症剤のリード化合物として期待される。
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