大腸菌K-12株を高圧処理(25℃、75MPa、30分)後、肉汁培地に生育させるとSulA非依存の細胞伸長現象が起きる。 SulA非依存の細胞分裂阻害は従来研究例が極めて少ない。細胞伸長現象の原因を究明する過程で細胞分裂に必須なFtsZリングの形成が強く抑制されていることが明らかとなった。抗体で検出出来る菌体当たりのFtsZタンパク質量には高圧処理前後で変化が無いことから、高圧処理によってFtsZ分子の一部に変性が起こり、その変性FtsZ分子がFtsZリングの形成を阻害し、SulAにはよらない細胞分裂阻害が起きたと推測された。 そこで大腸菌の無細胞抽出液を調製し、これに上記条件で高圧処理を行った。この試料に終濃度1mMのGTPを加えてFtsZタンパク質を重合させ、重合物を遠心分離で沈降させ、回収した重合FtsZをSDS-ゲル電気泳動にかけ抗体でFtsZタンパク質量を定量した。その結果、高圧によりFtsZの重合は強く阻害されることが判明した。更に精製したFtsZタンパク質を用いて同様の実験を行ったところ同様の結果を得た。FtsZは真核生物のチューブリンとアミノ酸配列のホモロジーがあり原核細胞の細胞骨格系タンパク質と呼ぶことが出来る。以上の結果より高圧処理に最も感受性なのは細胞骨格系のFtsZタンパク質がリング形成する過程であることを明らかにした。 高圧処理により真核細胞においても細胞骨格系タンパク質が最も感受性が高いと考えられたので出芽酵母菌及び分裂酵母菌について調べてみた。出芽酵母菌Saccharomyces cerevisiaeに大腸菌と同様の条件で高圧処理した後、液体培養すると約3時間半の間、出芽が停止した。細胞骨格のうちアクチンをローダミンファロイジンで蛍光染色し蛍光顕微鏡で観察したところ出芽の停止している期間に対応してアクチンフィラメントが消失していることが判明した。大腸菌の場合と同様に、出芽酵母菌の無細胞抽出液を調製し終濃度20mMになるようにKClを添加してアクチンを重合させた。アクチンの検出には特異抗体を用いた。その結果、高圧処理により出芽酵母菌のアクチン重合は強く阻害されることが明らかとなった。次いで分裂酵母菌Schizosaccharomyces pombeについて高圧処理(圧力条件のみ100MPa)の液体培養中の細胞について細胞骨格の微小管及びアクチン繊維の挙動を観察した。高圧処理によりアクチンフィラメントが長時間消失しその間、細胞分裂が停止した。微小管も消失するが途中で観察されるようになった。
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