射出胞子形成能はキノコ類や担子菌系酵母において属以上の高次分類の指標として用いられている形態学的形質の一つである。しかし、近年の系統解析の結果から本形質は系統関係を必ずしも反映しないことが示されているため、分子生物学的側面から本形質の分類指標としての評価を行うことを目的に、射出胞子の形成に関わる遺伝子の探索をBullera oryzae JCM 5281を用いて行った。平成15年度は、野生株と自然変異的に得られた変異株のmRNAの発現をディファレンシャルディスプレイにより比較し、差がみられることを確認した。しかし、これら自然変異的に得られた変異株は凍結保存により胞子形成を回復したことから、自然変異的に得られた株は、遺伝子が欠失したのではなく発現に差が生じたと推定された。そこで平成16年度は胞子形成条件の検討を再度行った。コーンミール寒天培地を用いて継代培養し、乾燥状態に置くことによって胞子形成は良好という結果がえられたため、培地中に含まれる水分に着目し、同一の培地を用い培地中に含まれる水分の差に基づく遺伝子の発現の差をsuppression subtractive hybridization法を用いて調べた。195個のクローンについて解析したところ、培地中に含まれる水分によってリボゾーム遺伝子およびミトコンドリア遺伝子の発現に差があった。さらに未同定のクローンについて解析を進める予定である。 系統関係を反映する新たな形質の探索については、これまでに報告されている各種データを、近年、再同定されたCryptococcus albidus complexおよびC.laurentii complexおよび種内多型が報告されているUdeniomyces pyricolaを用いて再検討したところ、アイソザイムデータが種や種内多型の識別に有効ではないかと推定された。
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