研究概要 |
我々は,担子菌キノコの交配から子実体形成に至る性生長機構を解明している.スエヒロタケのトリプトファン合成遺伝子TRP1はインドール耐性変異やカフェイン耐性変異によって引き起こされる性生長(交配,核移動)の異常を抑制する.これまでに,TRP1産物である3重機能酵素の3ドメインのうちIGPS(インドール-3-グリセロールリン酸シンターゼ)に性生長異常抑制能があることを明らかにしてきた.今回はこのIGPS領域が変異株の性生長異常抑制だけではなく,野生型株の正の性生長促進効果を持つことを明らかにした. まず,IGPS領域をアクチン遺伝子のプロモーターに連結してIGPS領域高発現遺伝子を構築した.これを用いてIGPS高発現二菌糸体を作出し,IGPS高発現化がスエヒロタケの性生長に与える影響を調査した.比較対照としてIGPS非発現二核菌糸体(trp1×trp1)およびIGPS通常発現二核菌糸体(TRP1×TRP1)のそれと比較した.IGPS非発現二核菌糸体とIGPS通常発現二核菌糸体は完全な子実体形成に温度シフトダウン後20日間を要したが,IGPS高発現二核菌糸体では性生長が促進され温度シフトダウン後10日間で完全子実体を形成した.さらにトリプトファン合成経路物質(トリプトファン,インドール,インドール酢酸)を最少寒天培地に添加し,各二核菌糸体の性生長を比較観察したところ,これらの化合物を培地中へ高濃度(1mM以上)添加すると性生長が抑制された.一方,インドールを低濃度(0.05mM)で添加すると,IGPS非発現二核菌糸体の性生長は促進されたが,IGPS高発現二核菌糸体とIGPS通常発現二核菌糸体の性生長は抑制された. 以上のことから,スエヒロタケTRP1のIGPS領域には,子実体形成を促進する効果があり,その促進効果にはインドールが深く関与していることが明らかとなった.
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