研究概要 |
本研究は,担子菌キノコの交配から子実体形成に至る性生長のシグナリング機構を解明することを目的としている.今回は,モデル担子菌であるスエヒロタケ(Schizophyllum commune)の性生長促進因子を環境因子(外的シグナル因子)と遺伝因子の両面から調査した. 1.環境因子(外的シグナル因子) スエヒロタケの寒天培地中にインドール(Ind)類縁物質を添加して,これらの外的シグナルが子実体形成に及ぼす効果を調査した.低濃度(100μg/ml)でのInd,インドール酢酸(IAA)インドール酪酸(IBA),インドールカルボン酸(ICA),インドールプロピオン酸(IPA)およびトリプトファン(Trp)の子実体形成促進効果は,IBA>ICA≧IPA≧IAA>Ind≧Trpであった.このことから,インドール骨格を持つ化合物が子実体形成を促進することが判った. 2.遺伝因子 スエヒロタケのTrp合成遺伝子TRP1はインドール耐性変異(ind1)やカフェイン耐性変異(cfn1)によって引き起こされる性生長(交配,核移動)の異常を抑制する.スエヒロタケTRP1を配列解析したところ同遺伝子産物は3重機能酵素であった.また,この酵素の3領域のうちIGPS(インドール-3-グリセロールリン酸シンターゼ)に性生長異常抑制能があった.そこで,IGPS領域高発現遺伝子を構築し,これを用いてIGPS高発現二核菌糸体を作出した.IGPS高発現二核菌糸体はIGPS非発現二核菌糸体やIGPS通常発現二核菌糸体よりも10日間早く子実体を形成した.このことから,TRP1中のIGPS領域はind1変異株やcfn1変異株の性生長異常抑制能だけではなく,野生型株の性生長促進能を持つことを明らかとなった.
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