カルニチンの働きは、ベータ酸化のための脂肪酸をミトコンドリア内へと運び入れることである。多くの研究者らによって、ミトコンドリアの機能不全によって誘導された膜透過遷移(MPT)がアポトーシスにおいて重要であることが明らかにされている。MPTはシトクロムcの漏出の通過口であると考えられ、漏出したシトクロムcとcaspaseの前駆物質が複合体を形成して、caspase依存型のDNase(CAD)を活性化させ、アポトーシスを起こすと考えられている。著者の所属する研究グループの研究結果(柏木ら、2001)から、カルニチンはMPTの閉口に関わっていることがわかってきた。甲状腺ホルモン誘導によるオタマジャクシ尾部アポトーシスにおいて活性化されるDNaseは、酸性DNaseである(Coleman、1963)。本研究の目的は、甲状腺ホルモン(T_3)誘導によるオタマジャクシ尾部アポトーシスにおけるカルニチンの役割を明らかにすることである。アセチル-L-カルニチンの共存下もしくは非共存下において、TKステージXのニホンアカガエルオタマジャクシをT_3に暴露して、脂質過酸化物の増加、DNA断片化の増加、DNAラダー構造の形成および酸性DNaseの活性の増加を生化学的に調べた。その結果、T_3によって誘導された尾部の短縮に伴い、脂質過酸化物および酸性DNaseの活性は増加し、そしてDNA断片化の増加およびDNAラダー構造の形成が観察された。アセチル-L-カルニチンはT_3の効果を抑制した。さらに、システインプロテアーゼ阻害剤であるE-64の存在下もしくは非存在下で培養された尾部にT_3を処理したところ、E-64を前処理した尾部ではT_3処理した尾部の酸性DNase活性の約半分であった。E-64の前処理によって、酸性DNaseの活性が部分的に抑制されることがわかった。これらの結果は、T_3誘導による尾部アポトーシスの機構にMPT、脂質過酸化や酸性DNaseの活性の増加が重要な働きを担っていることを示唆した。
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