研究概要 |
γ-グルタミルシステイン合成酵素は、MgATPの存在下グルタチオンの前駆体であるγ-グルタミルシステインを合成する酵素である。本酵素を特異的に阻害するsulfoximine構造を有する遷移状態アナログとの複合体について、2.1Å分解能における結晶構造を決定した。 ATP共存下における反応により準不可逆的に遷移状態アナログを結合させた複合体を結晶化に用いた。SPring-8ビームラインBL41XUにおいてX線回折強度測定を行い解析した結果、本結晶の空間群はP2_1、格子定数a=70.5,b=97.4,c=102.2Å,β=109.6°であった。初期位相は分子置換法により得られ、最終的にR_<cryst>=19.9%,R_<free>=22.5%のモデルを得た。 得られた構造モデルより、ATPのγ位リン酸基はアナログに完全に転移しておりsulfoximineの絶対配置は予想通りR配置となっていることが示された。Sulfoximine基のNS窒素原子は、Mg^<2+>に配位して、転移したγ位リン酸基、Glu-29、Glu-67とともに平面を構成する。これにより、グルタミン酸のγ位カルボキシル基上に位置するLUMOがシステインによる求核攻撃に有利な配向をとるように厳密に制御されていると考えられた。Tyr-131,Tyr-300のphenol-OH基は、carboxybutyl基のCOOH基と水素結合可能な距離に位置した。遷移状態アナログの結合に伴い240-249残基からなるスイッチループが大きく構造変化しており、これらの構造変化に伴いTyr-131,Tyr-300の側鎖が大きく回転することでCOOH基を認識できるようになることが分かった。以上より、遷移状態アナログの結合に伴うslow-bindingにはこれらの構造変化が関与しており、遷移状態の安定化に関与するこれらの構造変化が初めて示された。
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