筋組織、特に骨格筋はグルコースを最も消費するだけでなく、グルコースをグリコーゲンとして蓄積する最大の組織である。絶食や糖尿病など、生体内グルコースの利用に制限が加わり蓄積したグリコーゲンが枯渇すると、脂質代謝に関わる遺伝子群が発現誘導を受け、主要なエネルギー源をグルコースから脂肪酸へとシフトさせる。心筋においても同様で、通常より骨格筋と比べて脂肪酸の利用率は高いが、絶食状態が長く続くとその利用率はさらに高まる。本研究は、筋組織における栄養ストレス下、特にグルコース飢餓における脂質代謝関連遺伝子の発現誘導メカニズムを解析することによって、生体における代謝変換メカニズムを遺伝子レベルで明らかにすることを目的としている。 骨格筋においてAceCS2遺伝子の発現は、絶食によって10倍数程度にまで増強される。この発現誘導を指標にAceCS2遺伝子の転写調節領域の解析を行った所、KLF15(Kruppel-like factor 15)がこの発現誘導に重要な役割を担っていることが明らかとなった。このKLF15は絶食状態における骨格筋で数十倍にまで発現が誘導され、これがSp1との協調的作用によってAceCS2遺伝子の転写調節を行っていることが示された。実際、KLF15を骨格筋由来の培養細胞に導入するだけで、これまで殆ど発現の見られなかったAceCS2遺伝子の発現が数倍にまで上昇した。また、KLF15はグルコーストランスポーターの一つ、Glut4遺伝子の発現誘導を担っていることからも、絶食時における遺伝子の発現調節に重要な働きをしていることが予想された。
|