近年、狂牛病、アルツハイマー病など、フォールディング病と総称される様々な疾患に、難分解性タンパク質凝集体が関与することが知られてきているが、その凝集機構はよくわかっていない。一つの可能性として、天然型L-アスパラギン酸のD-アスパラギン酸への変換が、その引き金となっているという指摘がある。本研究では、D-アスパラギン酸がモデルペプチドや食品タンパク質のコンフォメーションをどのように変化させるのか、またその変化によってタンパク質の凝集が実際に促進されるのか、明らかにすることを目的として研究を行った。 L-アスパラギン酸はペプチド中ではα-ヘリックスの形成を促進するアミノ酸であるので、D型への転換がα-ヘリックスの形成を阻害するのかどうか検討した。すなわち、I-N-E-G-F-D-L-L-R-S-G(全てL型アミノ酸)のようにアスパラギン酸を含み、α-ヘリックスを形成しやすいペプチドを合成してコントロールとした。一方、そのペプチド中のL-アスパラギン酸をD型に代えたものについても合成し、両者のペプチドの高次構造をCDやFT-IR分光法によって比較検討した。その結果、水溶液中に存在するか膜などの疎水的な環境中に存在するか等の条件によって影響を受けるものの、L型からD型へのアスパラギン酸の転換は、α-ヘリックス構造を大きく変化させることを明らかにした。また、クリスタリンやタウタンパク質の部分ペプチドを用いて、同様にアスパラギン酸の異性化によって構造変化が生じ、凝集対を形成しやすくなることを見出した。 一方、食品タンパク質の各種加工条件による凝集体形成におけるD-型アスパラギン酸の関与、また形成された凝集体の解離方法についても検討を進めた。本年度は、噴霧乾燥などの処理によって形成された凝集体を、ガラス転移点以上の温度で保持することにより、分子間β-シート構造をα-ヘリックス構造に巻き戻し、凝集体を解離させることが可能であることを見出した。
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