近年、狂牛病、アルツハイマー病など、フォールディング病と総称される様々な疾患に、難分解性タンパク質凝集体が関与することが知られて来ているが、その凝集機構はよくわかっていない。一つの可能性として、天然型L-アスパラギン酸のD-アスパラギン酸への変換が、その引き金になっているという指摘がある。本研究では、D-型アスパラギン酸がモデルペプチドや食品タンパク質のコンフォメーションをどのように変化させるのか、また、その変化によってタンパク質の凝集が実際に促進されるのか、明らかにすることを目的として研究を行った。 10残基から30残基程度のペプチドを数種類合成し、そのL-型アスパラギン酸をD-型アスパラギン酸に置換した時のコンフォメーションの変化をCDやFT-IRなどの分光学的方法によって検討した。また、フォールディング病において特徴的に見出されるアミロイド繊維の形成を、蛍光色素観察法などによって検証した。その結果、ほとんどのペプチドで、D-型アスパラギン酸への置換によってβ-シート構造の形成が促進されていることが明らかとなった。また、ヒトのタウタンパク質については、β-シートの形成に伴い、アミロイド繊維状の凝集体が形成されていることが確かめられ、D-型アスパラギン酸が難分解性タンパク質凝集体の形成に関わっている可能性が示唆された。 一方、食品タンパク質の各種加工条件による凝集体形成におけるD-型アスパラギン酸の関与、また形成された凝集体の解離方法についても検討を進めた。また、噴霧乾燥などの処理によって形成された凝集体を、ガラス転移以上の温度で保持することにより、分子間β-シート構造をα-ヘリックス構造に巻き戻し、凝集体を解離させることが可能であることを見出した。
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