研究概要 |
中部山岳地のトウヒ属植物に寄生するさび病について,それらの発生生態や分布を広範な調査によって明らかにするとともに,病原菌についての分類学的検討,接種実験による生活環の解明ならびに病原菌個体群の遺伝解析を行った.その結果,ヤツガタケトウヒとヒメマツハダに同種寄生種のChrysomyxa abietis,トウヒに異種寄生種のC.succineaの発生をそれぞれ認めた.さらに本研究によって初めてハリモミにさび病の発生を認め,接種実験ならびに分類学的検討により同菌がミツバツツジ類を冬胞子世代宿主とする異種寄生性のChrysomyxa属さび菌の新種であることを明らかにした.また,中部山岳地のトウヒおよびハクサンシャクナゲに広く発生が見られたC.succineaについて,発生生態が異なる個体群を用いてリボソームDNA IGS領域を指標としてPCR-RFLP解析を行ったところ,供試菌個体間で多型が認められた.異種寄生型生活環を有する八ヶ岳,富士山三合目,富士山御殿庭の個体群ではいずれも遺伝的変異が多数認められたのに対して,同種寄生型生活環を有する富士山五合目,富士山御庭の個体群ではすべての個体が同一のバンドパターンを生じ,さらにそのバンドパターンは異種寄生型生活環を有する個体群にみられるものとは異なっていた.したがって,中部山岳地のC.succineaには生活環の異なる個体群が存在し,さらにこれらの個体群は遺伝的にも分化を生じていることが明らかとなった.
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