研究概要 |
日本の樹木のなかで大きく重い種子をもつトチノキについて、重さの異なる種子を異なる光条件と養分条件で発芽させ、種子に由来する利用可能な資源および発芽後の獲得により利用可能な資源の量と比が異なる実生が、どのように資源利用様式を変化させるか、および遺伝型の影響について調べた。トチノキ1個体から採取した種子を重さ段階に分けてポットに播種し、スギ人工林の内外と施肥の有無の4組合せの処理で育て,発芽から50日たった開葉終了後と、1年後の開葉終了後に各処理10個体ずつ収穫して各器官の形態と重量および窒素量を測定した。その結果、発芽から初期の個体重と形態は、おもに生育する環境における光資源の量と種子由来の資源量およびその比によって変化したのに対して、発芽から1年たった開葉終了後では、生育する環境における光資源の量だけでなく、養分資源の量とその比が影響した。種子が小さく、生育期間に葉を展開し続けるアカメガシワでは、成長の初期から光と養分の量と比に対応して資源利用様式を可塑的に変化させたのに対して、トチノキでは種子に由来する資源と発芽後に獲得可能な光と養分の資源の量と比は、発芽から1年後の形態に顕著にあらわれた。特に光に対して相対的に養分が不足している林外において養分の影響は顕著であった。さらに遺伝マーカーを用いて、種子を採取した個体の周辺に成育するトチノキのなかから、それぞれの実生の花粉親を決定し、種子親と花粉親との遺伝的近縁度を求め、資源利用様式に近交弱勢など遺伝的な影響があるかを調べた。その結果、実際の個体重と生育環境の資源条件と種子重から予想される個体重との偏差と、花粉親との遺伝的近縁度との間には明瞭な関係はなかった。
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