1.広葉樹林とそれに隣接するスギ人工林内での種子落下状況 これまでの結果と同様、種子落下は秋〜冬季の方が春〜夏季より多かった。しかしながら、昨年度の台風の影響が残っているのか、落下数は少なかった。鳥散布種子の内自然落下したものと重力落下種子の落下は広葉樹林内とその周辺に限られていたが、鳥により散布された種子は、スギ人工林内でも回収された。 2.鳥類および種子食性ほ乳類相とそららによる人工林内への種子の持ち込み 2005年4月から2006年2月まで1-3回/月、6定点で実施したプロットセンサスにより、26種の鳥類が観察され、果実食性鳥類は12種と占めた。1時間あたりの観察頻度は、スギ人工林と広葉樹林のいずれもヤマガラが最も高く、次いでヒヨドリ、コゲラが高かった。観察頻度が高く、個体のサイズが大きいヒヨドリの鳥散布者としての重要性が示唆された。2005年4月16日から2006年2月24日まで10回にわたり調査地とその周辺に設置したかすみ網に、全部で12種37個体、果実食性鳥類は8種16個体が捕獲された。捕獲されたカケスの糞からは、ナガバノモミジイチゴ、メジロの糞からはツルウメモドキの種子が回収できた。 調査地内でのわなかけ調査で、アカネズミ18個体とヒメネズミ8個体が捕獲された。比較的長時間恒常的に捕獲され、定住個体と思われる個体は、アカネズミ、ヒメネズミそれぞれ1個体であった。アカネズミ定住個体は、広葉樹林とスギ人工林にまたがる行動圏を持ち、広葉樹林内の地表に設置した小型発信機付きドングリの一部を、スギ人工林内に運搬し、地表近くの土壌中に貯食した。 3.広葉樹林およびスギ人工林内での広葉樹の稚樹の発生状況 被食散布型種子を生産する木本類の稚樹は、スギ人工林内では52種9640個体、広葉樹人工林内では45種6788個体が生育していた。個体数が多かったのは、いずれの林分でもタブノキとシロダモで、林分内の全域に分布していた。その他では、スギ人工林ではヤブニッケイ、ホソバタブ、ヤマグワなどが、広葉樹林ではヤブニッケイ、イヌガシ、ホソバタブ、コバンモチなどが多かった。重力散布型種子を生産するマテバシイも多くの稚樹が全域に生育し、稚樹の密度は広葉樹林とスギ人工林で差はなかった。 これらの結果から、広葉樹のスギ人工林への侵入に対し果実食性鳥類や種子食性ほ乳類が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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