果実食性鳥類による被食散布型種子のスギ人工林への散布 広葉樹の被食散布型種子は、自然落下だけでは広葉樹林内の結実木の樹冠下とその周辺にしか分散できなかった。しかし、果実食性鳥類の採食活動に伴い、広葉樹林内のみならずその付近で結実した被食散布型の種子が、スギ人工林の内部にまで広く散布された。鳥類のセンサスと捕獲個体の糞内容物調査を通して、ヒヨドリが有力な散布者であると考えられた。広葉樹林内の結実木へ誘引された果実食性鳥類の飛翔経路が、スギ人工林内に散布された被食散布型種子分布に影響を与えていると考えられた。 種子食性のネズミによる重力散布型種子のスギ人工林への分散 調査地内には、定住していると考えられるアカネズミとヒメネズミが生息し、一部の個体の行動圏は、広葉樹林とスギ人工林にまたがっていた。広葉樹林内に設置したマテバシイのドングリの1/4から1/2が、スギ人工林内へ運搬され、貯食されていた。貯食場所の分布は、設置場所周辺に生息している定住個体の行動圏の広がりと良く一致した。ドングリは、広葉樹林との境界からスギ人工林内へ最大で30mほどは行った場所にまで運ばれていた。また、これらのドングリの一部は、野ネズミによる捕食を免れていた。種子捕食者である野ネズミは、貯食活動を通して、重力散布型種子を生産する広葉樹のスギ人工林内への侵入に対し、重要な役割を果たしうることが明らかになった。 スギ人工林内への稚樹の侵入・定着 スギ人工林内では、86種約17000本の広葉樹の稚樹・幼樹が生育していた。稚樹と幼樹は、広葉樹林との境界部に多く、広葉樹林内での種子生産や野ネズミによる地上に落下した種子の運搬、さらに果実食性鳥類による林外からの種子の持ち込みが、スギ人工林への広葉樹の侵入・定着とそれらの分布に影響を与えていると推察された。
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