研究概要 |
森林資源の減少と土地利用の進展が湖沼の水産資源に及ぼす影響を明らかにするため,北海道東部網走地域の湖沼周辺における河川水質と森林調査を行った.流域の土地利用はGISを使った解析から過去30年間に森林が減少し,畑作地が増加する傾向が認められた.長期的な河川水質に関しては,SSは減少,T-N, T-Pに関してはほぼ横ばいか若干の増加傾向が見られた.さらに2003〜2005年にかけて,流域内に18点の測点を設け出水時の水質調査を行ったところ,最高で1860mg/1という高い濃度のSSが左岸支流と本流域に沿って観察され1雪期においても最高490mg/1の比較的高いSSが測定された.SSの粒度組成は,63μm以下の細粒砂とシルトなどが80%以上を占めていた.一方,湖における底質は河口付近に63μm以下の細粒砂の占める割合が大きく,さらに細粒砂の割合とシジミ貝の密度および太りなどとは負の相関が見られた.シジミ貝の炭素安定同位体比は,春季が-18〜-19‰前後,窒素δ^<15>Nは9.6〜10.8‰の範囲でいずれの地点もかなり高く,これらの値は秋季においてもほとんど変化がなかった.一方陸上植物起源有機物の同位体比は-27〜-28‰(δ^<13>C),-0.5〜-1‰(δ^<15>N)とシジミの値と大きくかけ離れており,陸上起源有機物の利用率はきわめて低いと考えられた,以上の結果から,湖のシジミに与える森林の栄養源としての効果は小さく,逆に流域から生産される土砂がシジミ貝の密度や成長に悪影響を及ぼしていると結論付けられた.高い濃度の土砂の発生要因は断層など地質条件によるものが大きいが,そうした脆弱な地質の山地において森林伐採などによる崩壊が多発しており,こうした人為的な影響が土砂流出を加速化している可能性がある.したがって,湖沼の水産資源を保全するために,上流域の注意深い森林の施業を行ってゆく必要があると考えられた.
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