研究課題
本年は、スギこぶ病の疫学的調査をすすめ、造林地において被害木の診断を容易に行えるように調査研究を行った。特に本年は、スギの外部形態的な特徴として、叢生枝および平滑樹皮に着目し本病との関係を調査した。その結果、被害の多かった谷部や平坦地でこれらの外部形態的特徴が多くみられ、被害が少なかった尾根部ではあまりみられなかった。本病の病徴部であるこぶ内部は、多数の成長点が集まった構造をしており、これらの成長点から叢生枝を形成していることがわかった。また、一般的にスギの樹皮は代謝が活発に行われているものほど凹凸になるといわれており、本来適地である谷部の方が尾根部のスギよりも凹凸な樹皮になるといわれている。しかし、本研究では本病被害の多かった谷部では尾根部より毛平滑な樹皮を持つスギが多くみられ、本病により樹勢が低下しているものと考えられた。しかし、これらの外部形態的な特徴の発生は、被害が多かった谷部や平坦地と、被害が少なかった尾根部とでは異なったパターンを示した。被害が多かった谷部や平坦地では罹病木のほとんどに叢生枝または平滑樹皮の発生がみられ、健全木からはほとんどみられなかったのに対し、被害の少なかった尾根部では谷部や平坦地に比べてそれらが罹病木にあまりみられず、健全木に多くみられた。これらのことから、降水量が多く、湿度が高いスギ林での本病の診断には叢生枝や平滑樹皮の発生を調査することが有効であると考えられた。本病原菌の所属を検討するため、7月の子のう殻の成熟期に分子生物学的に検討した結果、形態的な所属と大きく異なり本実験は3年目となるがさらに次年度も追試を行う予定である。