研究概要 |
本年度は,ニホンキバチ(Urocerus japonicus)の共生菌(Amylostereum laevigatuni)のスギ生立木への接種時期と繁殖との関係について,新たな知見が得られた。筆者らは,これまでにニホンキバチが既に材内に共生菌が繁殖している伐倒木を繁殖源として利用できることを明らかにしてきたが,共生菌の生立木への接種時期およびスギの伐倒時期による共生菌の繁殖状況の違いについては明らかにされていなかった。そこで,本年度はこの点について主に調査した。7月接種-8月伐倒木(以下7月接種木)では接種部付近の木口面に明瞭な変色が認められたが,10月接種-11月伐倒木(以下10月接種木)ではほとんど認められず,軸方向の変色長も,7月接種木では平均40cm程度であったのに対し,10月接種木では10cm未満と小さかった。共生菌は7月接種木においては接種点から20cm以内の地点の変色域内で繁殖しており,分離率は20%以下であった。一方,10月接種木においては変色域とは関わりなく接種地点から最大80cm地点まで繁殖しており,分離率は高いものでは100%の地点もあった。これまで,7月に産卵あるいは共生菌が人工接種されたスギにおいては,主に変色域内でのみで共生菌が繁殖していることが示されている。このことは,変色に共生菌の材内での伸長を阻害する作用があることを示唆している。一方,本調査の10月接種木でははとんど変色が発生せず,その機能が働かなかったため変色域に関わらず共生菌が広く繁殖したものと考えられる。以上のことから,ニホンキバチの繁殖源としての"質"に及ばす影響は,生立木への共生菌の接種から伐倒までの期間よりも接種される時期が重要であることが示唆された(福田ら,2004年度日本林学会大会発表予定)。その他,本年度は共生菌の材内での繁殖期間に関する論文を公表した(中部森林研究,2004)。
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