研究概要 |
本年度は,ニホンキバチ(Urocerus japonicus)の共生菌(Amylostereum laevigatum)のスギ材内での繁殖が材成分に及ぼす影響および共生菌のスギ生立木における繁殖状況について新たな知見が得られた。以下の主な成果を記す。 生立木においては,共生菌の接種により接種1ヶ月後に対象区と比較してN含有率が0.1%近く高く,それに対応してC/N比が低かった。しかし,これを除いて,対象区との間に差は認められなかった。このように,伐倒木では対象区との間に差が認められなかったことから,生立木における変化は樹木側の反応であると考えられる。すなわち,共生菌自体は少なくとも材のN含有量の上昇という形ではニホンキバチ幼虫にとっての材の栄養改善には寄与していないものと考えられた(福田ら,印刷中)。 生立木に共生菌を接種したところ,全ての接種木で材変色が確認された。変色長は個体間でのばらつきが大きかったが,変色長は接種3ヵ月後には平均20.6cm,6ヵ月後には38.6cm,9ヵ月後には40.0cm,12ヵ月後には43.3cmであり接種後の時間経過とともに変色が伸長した。特に接種から6ヵ月後までの伸長が著しかった。共生菌は,接種3ヵ月後には変色部と非変色部から分離された。一方,接種6ヵ月後以降は,非変色部から共生菌は全く分離されず,変色部のみから分離された。接種12ヵ月後には,共生菌が全く分離されない個体,高率で分離される個体があった。また,接種点から共生菌が連続して分離された部位までの範囲での分離率は6ヵ月後までは平均50%程度であったが,それ以降時間経過とともに低下し,12ヵ月後には平均30.0%であった。共生菌は生立木に接種された時点では活性が高く,接種後3ヵ月以内に著しく繁殖域を広げるため,樹木の生体防御反応と考えられる変色が追いつかず,非変色域でも繁殖していたものと考えられる。しかし,接種3ヵ月後から6ヵ月後の間で共生菌の伸長が停止し,変色が共生菌の繁殖域に追いつき,その後共生菌の活性は低下したと考えられた(鈴木ら,印刷中)。
|