研究概要 |
汽水域とは潮位変化に伴う物理・化学的現象を背景として、陸域、淡水域、および塩水域のそれぞれの特徴を持った、特有かつ独自の生態系を伴った水域が発達しており、そこに成立する水辺林はこうした汽水域の多様な生態系を担うひとつの重要因子となるため保全再生の意義は大きい。ところが現実には、潮位変化に起因する塩水遡上が汽水域への人為的な植生を阻んでいる。潮位変化という汽水域の多様性を生み出す自然のシステムを許容しながら水辺林を再生するためには、遡上塩水への冠水に対する抵抗力が強い耐塩水性樹種を植栽木として採用する方策が必要となる。本研究では、南九州汽水域に生育するハマボウの耐塩水性を実験的に考察した。 ハマボウ挿し穂を異なる濃度の塩水に浸しその後の発根状況を観察した結果、ハマボウ挿し穂が許容しうる最大危水塩水濃度は22,000(μS/cm)程度であり、発根期間は5〜10月であると推定され、この結果はハマボウ挿し穂の土中発根試験で裏付けられた。また、異なる濃度の塩水を含ませた播種床に硫酸処理を加えたハマボウ種子を置きその後の発芽状況を確かめた実験により、ハマボウ種子が許容しうる塩水濃度も、ハマボウ挿し穂と同様に22,000(μS/cm)程度と推定された。特に水道水および13,500(μS/cm)以下の塩水を含ませた播種床では、実験開始から5日後の発芽率が90%を示した。 これらの結果から、水辺に生育する他の木本と比較してハマボウは挿し穂および種子段階において優れた耐塩水性を持っており、許容濃度以下の塩水による冠水が予想される汽水域への人為植栽の妥当性が導かれた。
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